増加の一途を空き家は全国で約800万戸以上。総数は20年で倍増しています。
少子高齢社会の到来により、空き家を相続する可能性は多くの方にあります。
相続した空き家を管理するコスト以外にも考えなくてはいけない問題が多く、実家の今後についてはご家族にとっても大きな関心事のはずです。
中でも大きなリスクのひとつなのが「火災」ではないでしょうか。
今回は空き家にはほぼ加入必須と考えても良い「火災保険」についてご紹介します。
空き家を対象とした火災保険は、取り扱いが少ないものの、会社によっては商品として用意しています。
なお、当記事は特定の会社が提供するサービスへの契約を斡旋するものではありません。
また、火災保険等の保険は、その保険商品の特性や内容をよく理解した上で契約するものです。事前に重要な事項の説明を受け、不明点は保険会社に聞くなどして、よく理解した上で契約しましょう。
さらに、保険を取り扱う代理店などのポジショントークが多く見られるインターネット上の記事では、恣意的で偏った情報に注意し「火災保険といえば〇〇」のように断定的な情報を鵜呑みにせず、ご自身の状況にしっかりと適合した契約を行いましょう。
空き家にも火災保険は必要だと考えられる理由=放火のリスク
空き家は人が住んでいる家に比べて管理が行き届いていないケースがとても多く、空き家になっている期間が長くなればなるほど、リスクが増します。
- 倒壊、外壁の落下、火災が発生する恐れのあること
- 空き家であることが犯罪に利用される可能性のあること
- ゴミの不法投棄を発生させる原因となること
- 蚊やハエが発生したり、ネズミ、野良猫が空き家に集中すること
- 落書きや、ゴミが散乱するなどして、景観が悪化すること
- 庭木が近隣住宅に侵入したり、落ち葉がいたるところに散らばったりするなど
このようなリスクに対処するため、空き家になる期間が長期にわたる場合でも、そうでない場合でも火災保険の加入は必須と考えて良いのかもしれません。
とくに火災等の不測の事態に備えた火災保険は、有事の際の有効な手段となります。
空き家への放火のリスクにそなえるために
実は、出火原因の上位に必ず存在するのが「放火」です。
総務省消防庁「消防白書」によれば、2015年(平成27年)の出火原因の1位となったほか、令和元年版 消防白書 では、たばこの不始末(不適当な場所への放置。これには空き家も含まれることでしょう)、たき火、こんろの消し忘れに続いて実に2,784件となっています。単純に1年を365日として計算してみると1日平均で7.6件の放火による火災が起きていることになります。とても他人事ではありません。
相続した空き家は資産価値が低いからと火災保険を見送ると想定外の重大な事態になりかねません。
さらに売却などを考えているようなケースでも、自分の目の届かない時間がある以上、放火のリスクに向き合うことはとても重要です。
空き家でも火災保険に加入していれば、放火されても保険金を受け取れます。
放火のリスクを考えるだけでも、火災保険への加入は必須と考えても良いかもしれません。
空き家への放火で発生する損害と補償
空き家の放火で発生するケースとして、たとえば、隣の空き家が火事になって火が燃え移り、自分の所有する空き家も火事になってしまう場合(いわゆる「もらい火」)には火元の隣の家に弁償や補償を求めることはできません。
このことは「失火責任法」によって定められており、火元が重大な過失(タバコの不始末、こんろの消し忘れなど)により発生させた火事でない限り、火元となった人は損害賠償責任を負わなくても良い、とされています。
自分の空き家が延焼してしまっても、火元の人に損害賠償を請求できない以上、自分の所有する物件に火災保険をかけ、火災についての備えをおこなっておくことはとても重要なのです。
仮に自分の家まで延焼した場合、空き家の中にあった家財、焼け残った家屋の解体費用を捻出する必要があるばかりではなく、住居としての固都税の特例が受けられなくなり、固定資産税の税率が6倍になるケースも考えられます。
こうした不測の事態に備えるため、火災保険は有効だといえるでしょう。
管理の程度によっては、火災保険に加入していても保険金を受け取れないケースも
火災保険に加入していても、管理を怠っている場合には、火災の発生しやすい状況を放置している場合には、保険金を受け取れないこともあります。
管理が行き届いていない場合には、保険金の補償が受けられない場合もあることに注意しておきましょう。
重大な過失として保険金を受け取れなかったケース
■建物を3カ月間空家のまま放置し、かつ、西側に大型の石油タンクがあるような状況で、裏口に鍵がかかっておらず、犯人はそこから侵入して放火したとされたケース(平成8年3月、福島地裁)
■火災が発生したのは空家で、親族が管理している。火災発生当日の昼、何者かが侵入し整理ダンスや衣類を出して室内に山積みにし、畳に染み込むほどの灯油がまかれるなど放火の準備とみられる危険な状況が確認された。しかし、警察へ届け出たり、室内の危険な状況を片付けるといった対応をなにもせず、当日夜に火災が発生。管理者の重大な過失と認められたケース(平成22年7月、新潟地裁)価格.com – 放火されたら火災保険で補償されますか?| 火災保険の選び方・比較方法
多くが明らかに管理側に問題があったと認定されるケースです。
火災保険に加入していても火災保険の保険金が受け取れないといったことにならないよう、十分なリスク管理が求められます
人が住んでいた時の火災保険を、空き家となった状況へスライドして適用できない
注意しなければならないのは、人が住んでいた時に契約した火災保険が、空き家になった後も効力を発揮していると思い込んでしまうケースです。
多くの損害保険会社では、空き家(「空家」とも)の場合には、火災保険に加入できない、と明記されています。
つまり、人が住んでいる居住中は火災保険の補償対象となっていても、空き家になった場合には補償の対象外となるのです。
保険の重要事項説明書などには「空き家になった場合には、保険会社に連絡すること」という旨の一文が記載されていることが多いようです。
住宅の所有者の変更や住所の変更は保険会社に連絡する必要がありますが、ご両親の死後事務に追われて所有者の変更などについて保険会社へ通知ができない場合もあることでしょう。
こうしたケースでは、保険対象外となってしまったにもかかわらず、保険料の支払いを継続できてしまうため、思わぬトラブルに発展します。
保険料を支払っていたとしても、空き家状態であれば保険金が支払われない場合もあるため、思い当たることがあるときは、ご自身の火災保険の内容を確認しておきましょう。
なお、保険代理店の方でもこのような知識をお持ちの方がまだまだ少ないようで誤案内を受けたという方もいらっしゃるようですので、保険会社に直接問い合わせて不明点を明確にするなど、確認を行っておきましょう。
空き家の火災保険に加入する際の注意点
次に、空き家の火災保険に加入する際の注意点について以下にご紹介します。
放火などのリスクを想定してあなたが所有する空き家物件に対しての火災保険に加入したい場合には、火災保険の補償内容や、その理由について、くわしく把握しておくことをオススメいたします。
空き家は、あなたの自宅と同じ保険には加入できないケースが多い
先にスライドして適用できないことをお伝えしたように、空き家へはあなたの自宅と同じ保険に加入できません。
住宅として現在も人が住んでいる住居と空き家とでは保険上の取り扱いが異なるためです。
理由としては、保険会社にとってみれば、空き家は人が住んでいる家よりも、火災や倒壊などによって保険金を支払わなければならないリスクが高いからだと考えられます。
そのため、空き家に火災保険をかけたくても必ずしも加入できるとは限りません。
くわしくは、保険会社に連絡を取り、確認しておきましょう。
空き家の火災保険が高くなる理由は「住宅」としての契約でないから。
空き家の火災保険は、住居用の火災保険とは違い、やや割高の保険料となるケースが多いようです。
火災保険の物件は具体的に以下の3つの分類があり、保険料は以下の順に高くなります。
- 専用住宅物件(住むための建物。多くがこれに該当する)
現在居住用途として使っている物件、または転勤などで一時的に空き家になっている物件 - 併用住宅物件
住宅に店舗や事務所等が併設されている物件 - 一般物件
店舗や事務所など主に事業用の物件
空き家の場合、火災保険に加入するなら「一般物件」として契約するケースが多いようです。
どの分類として火災保険を契約するかは、各保険会社に委ねられ、その基準もさまざまです。
いずれにしても、空き家となることが判明したらすぐに、現在火災保険等を契約している保険会社に連絡を取り、空き家でも契約可能な火災保険への切り替えが望まれます。
空き家でも加入できる保険商品も存在する
大半の火災保険は、空き家状態だと加入できません。
大手保険会社でも「空き家」について明記されているケースはとても少なく、共済も空き家は取り扱いできないようです。
しかしながら、一部で空き家状況でも加入できると明記されている商品があります。
現在、契約している火災保険が空き家に対して補償できるものかどうかは、契約中の保険会社に問い合わせることで明確な答えを受け取ることができます。
不安な場合には、保険会社に電話するなどして、確実な返答を受け取るようにしましょう。
空き家についての言及が少なくともHPに記載されている保険会社
空き家の状態にあっても火災保険に加入できるとしている保険はとても少ないのが現状のようです。
そもそも空き家(空家)状態では契約できないとしている保険会社が多く、たとえば東京海上日動火災保険「【火災保険】空家でも「トータルアシスト住まいの保険」を契約することはできますか。 | よくあるご質問(FAQ)」や共栄火災「空家でも「安心あっとホーム(個人用火災総合保険)」で契約できますか?」のように、引き受けできない旨を明記している保険会社もあります。
日本損害保険協会の会員会社のうち「一般物件」として加入できる旨が記載されていたのは、以下の企業でした。
なお、空き家状況にあっても加入できることを保証するものではありません。
加入にあたっては、信頼のできる保険会社さんや代理店さんにご相談いただくのが良いでしょう。
- あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
空き家は「その他の物件」として火災保険に加入できる(地震保険は加入できない) - 三井住友海上火災保険株式会社
空家管理事業者向けではあるが「空家賠償責任保険」を発売しているようで、個人向けのものが提供される可能性があります
以上の会社以外にも、あなたが所有する空き家を保険会社がどのように解釈し、判断するかによって、加入できるかどうかが決まります。直接保険会社に連絡を取るなどして調べてみると安心でしょう。
火災保険の契約について話をする時には、空き家の状況(老朽化の程度、家財の有無など)をしっかりと把握した上で、空き家の今後をどうするのかあらかじめしっかりと話し合った上で契約の相談を行いましょう。
空き家にかかる火災保険料や契約の可否は、保険会社の判断です。
A社で引き受けできないと言われても、B社では受け入れてもらえる可能性はあります。
まとめ:一番大切なのは火災を防ぐこと
このように紹介しているとデメリットだらけに思える空き家ですが、防災や減災に空き家が活用できることはあまり知られていないようです。
たとえば、2011年の東日本大震災のような大規模災害に見舞われ、住宅不足になった際には住居を失った被災者のために活用できる空き家が、資産になり得ます。
相続後、真っ先に売却を目的として空き家を売りに出そうと考える方も多く、有効活用の方法も数多く検討されてきました。昭和の良さを残した物件は、比較的買い手も見つかりやすく、古民家カフェとして再生されているケースを地方ではよく目にします。
こうした活用を目指す前提でもっとも重要なのは平時の火災を防ぐことです。
火災を防いであなたの大切なご実家やご自宅が有効活用できるまで、しっかりと管理するのもとても大切な考え方です。
その際、不慮の火災のリスクに備えることで、より安心して活用方法を模索できることでしょう。
当記事が空き家の火災保険についてお悩みの方の一助となれば幸いです。