今回は、以前「相続登記の義務化:不動産を相続する前知りたいポイントとは?」にてご紹介した「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」の一環で成立した「国庫帰属制度」について取り上げます。
急増していて対策の難しい所有者不明の土地についての問題を解消するため、2021年4月に成立した「相続等により取得した土地所有権の国庫帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)が、2023年4月27日に施行される予定です。
望まずして土地を相続した人が、土地を放置することで新たなトラブルに巻き込まれるのを防ぐため、厳しい条件を満たせば相続人が得た土地を国に引き取ってもらえる制度が考案されました。
従前では、土地の所有権だけを放棄することは現実的に困難でした。
そのため、相続放棄しない場合には、土地を相続した人が売却を検討したり、売却できない場合には適切な管理を求められていました。
しかしながら、日本全国で空き家は減少することなく増え続けています。
総務省の「住宅・土地統計調査」によれば2018年の空き家数は849万戸で、30年前から2倍以上に増加しており、全国の住宅のうち、およそ7戸に1戸が空き家とされています。
そして、所有者不明の土地の割合は、空き家の割合よりも多いのではないかと推計されているようです。
少子高齢化により住宅需要が減少すれば、売却できない土地がさらに増える可能性もあり、地方では売却が困難なケースも少なくありません。
とはいえ、更地にして売却しようとしても解体費用が土地の売却費用よりも高かったり、そもそも売れないこともあり得ます。
「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」の「理由」には以下のような記述が見られます。
社会経済情勢の変化に伴い所有者不明土地が増加していることに鑑み、相続等による所有者不明土地の発生の抑制を図るため、相続等により土地の所有権を取得した者が、法務大臣の承認を受けてその土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を創設する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
つまり、売却できないからと、相続された土地が放置され、所有者不明となるリスクを回避したい狙いがあるように感じます。
また、所有者不明の土地をできる限り減らすため、相続登記の義務化が行われたと考えて良いでしょう。
その上で、今回ご紹介する「相続土地国庫帰属制度」により、使い道のない土地は国に引き取ってもらえる可能性が生まれました。
空き家問題の解決を担う選択肢のひとつとして注目されています。
よりくわしくは、以下をご覧いなると良いかもしれません。
参考:空き家解消を後押しするか 知られざる3つの解決法:日経ビジネス電子版
相続土地国庫帰属制度とは
相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈によって土地を取得した所有者が、法務大臣に対して、土地の所有権を国(国庫)に帰属できるかどうか承認を求めるられる制度です。
すなわち、相続した使い道のない土地の所有権を国に対して返却できる可能性があるのです。
しかしながら、先述した通り制限を設けておかないと「何でもかんでも国に帰属させれば良い」となってしまいモラルハザードとなりかねません。
そのため、相続土地国庫帰属法の対象となる条件は、極めて厳しいものになっています。
事前の調査によれば、本制度の利用見込み等に関する調査において、土地所有者のうち本制度を利用して国庫に帰属させると見込まれる者の割合が(中略)全ての平均で0.95%との結果がでた
とされているようで、実際に利用される可能性は低いのかもしれません。
ただし、今回の法律の附則に以下のように定められており、制度の活用状況などによっては見直しが行われる可能性もあります。
政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
e-gov 法令検索相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律
いずれにしても、空き家問題を解決するために必要な選択肢が増えることは、良いことだと言えるでしょう。
相続土地国庫帰属制度に申請できる人
相続土地国庫帰属制度を利用できるのは、相続や相続人に対しての遺贈により土地を取得した人です。
したがって、売買など自ら取得した土地は対象外となります。
また、土地を数人で所有している場合には、共有者の全員が申請しなければなりません。
相続土地国庫帰属制度に申請するための条件
次の全部に該当することが条件になっています。
- 更地である(建物が存在しない土地であること)
- 担保権など負担のある土地でない
- 通路などで他人によって使われていない
- 有害物質などによって土壌汚染されていない
- 境界が明らかになっている
- 崖が含まれていない
- 工作物・車両・樹木が地上にない
- 地下に除去の必要なものがない
- 隣人とトラブルを抱えていない
- 1~9までに掲げる土地の他に、通常の管理はまたは処分するにあたって過分の費用または労力を必要とする土地でないこと
つまり、相続した土地であって抵当権などが設定されておらず、土壌汚染や崖がない、土地をめぐって揉めていない更地で「可能な限り手のかからないこと」が条件だと言えます。
この辺りは、今後見直しがあったり、調整の可能性があります。
相続土地国庫帰属制度に必要なお金
審査手数料と10年分の土地管理費を支払います。
10年分の土地管理費は、粗放的な管理で足りる原野などで約20万円、市街地の宅地(200㎡)で約80万円とされています。
この管理費用には、柵や看板を設置するための費用や、草刈りや巡回のコストが含まれます。
また、土地を先にご紹介した条件へ当てはめるために、建物を解体(坪約5〜8万円)したり、境界を確定させる必要がある場合の確定測量(約40万円以上)が必要となる可能性もあります。
条件に該当したとしても、場合によっては帰属させるために数百万円単位の負担が必要の可能性もあります。
相続土地国庫帰属制度の流れ
相続土地国庫帰属制度の流れは、以下の通りです。
- 承認申請(書類を提出し、手数料を納めます)
- 審査(必要な場合は現地およびその周辺の実地調査)
- 負担金の納付(先にご紹介した標準的な管理費用など。実際の負担額は承認通知と併せて法務大臣から通知されます)
負担金を納付した時点で、国庫に移転されます。
なお、承認の通知を受けてから30日以内に納入しないときには、承認は取り消されます。
まとめ
今回は相続した土地を国庫に帰属させられる相続土地国庫帰属制度について見てきました。
現時点では一般の方の利用はとてもハードルが高く現実的ではありません。
そもそも厳しい条件を満たさなければならず、まとまった費用負担も必要なことから積極的に活用されるのはまだ先のことなのかもしれません。
そのため、現状では親の家はどうするべきなのか:相続税以外に注目すべきポイントにてご紹介したように、売却するか、相続するかの2択を迫られる場合が多いように感じます。
そのため、現時点では相続等によって土地を取得した場合には、信頼できる不動産会社に相談することをオススメします。
しかしながら、国が空き家や所有者不明な土地の問題に対して法律整備などを検討しながら解決策を模索していることは知っておいていただきたいと思います。
現在進行形で検討されているこうした法整備により、近い将来ご実家の今後について新たな選択肢が生まれるかもしれません。
こうした情報をキャッチアップしておくことで、いざという時の強い味方となるかもしれません。
最後までお読みくださいましてありがとうございました。