今あなたが住んでいる自分の家よりも、実家の処遇についてお悩みの方は少なくありません。放置していると、固定資産税などの固定費の支払いだけではなく、予想外のトラブルに見舞われることもあります。
実家を維持管理するためには、必要以上のコストが必要です。
維持にはコストがかかるからといって解体するには数百万円程度のまとまった金額が必要で、尚且つ更地にしたとしても売れない場合があるだけではなく、固定資産税が6倍まで跳ね上がるケースもあります。
一般的な正解がない中、時間だけが経過し解決策が見出せないまま、3年以上経過してしまった、という方は少なくないのが現状です。
そこで今回は、正解がない問題に対して「売却」をひとつの解決策とお考えの方に、親名義の家を売却する場合の方法をまとめてご紹介いたします。
結論として、親名義の家や土地を売却する場合、特例制度が受けられる3年を目安に、相続あるいは任意後見制度を利用して売却する手段を検討する方向性となります。
親名義の家や土地を勝手に売却はできない
しかし、親名義の家や土地を子供が勝手に売却することはできません。親の持ち物を売って自分のお金にすることとなるからです。
たとえば、親の経営するアパートの家賃は親の所得(利益)であり、子供の所得ではないのと同じ意味です。
仮に親が家を売却して子供へお金を与えた場合、これは贈与に該当し、贈与税がかかります。これなら贈与には該当しませんが、親子間での取引である以上利益は出ませんから現実的ではありません。
また、親から子へ自由に価格を決めて不動産の売却や移転登記は行えません。親子間であっても適切な手続きを経て、鑑定評価額に基づいた売買が必要です。
しかし、親名義のままの物件はいざという時にスムーズな手続きを行えない可能性があります。そこで、事前に準備や知識を持っておくことが重要です。
今回は想定される3つの方法についてご紹介します。
- 相続した実家を名義変更して売却する方法
- 成年後見人制度を利用して売却する方法
- 親の代理人として売却する方法
相続した実家の名義を変更して売却する方法
親が亡くなって家を相続したが住む予定がない場合については、名義変更を行なって売却する方針で手続きにあたります。亡くなった親の家を売るためのもっとも一般的なケースと言えるかもしれません。
具体的には、遺言書の有無を確認し、法律上の相続人の数と相続財産を調べて把握したのち、遺産分割協議を行なって相続登記(所有権移転登記)を行います。
名義が親のままでは不動産の売却はできないため、所有権移転の登記申請を提出して相続登記を行います。
相続登記の申請書は専用の様式があるわけではありません。困った時は司法書士に作成を依頼すると安心です。
相続登記には、登記申請書のほか、遺産分割協議書、印鑑証明や戸籍謄本、住民票の写しに加え、遺言書が書かれている場合には遺言書が必要です。
売却するなら共同名義にしないほうが良い
親の家の売却をお考えの場合には、相続する段階で共同名義にしないように注意したほうが良いでしょう。
共同名義とした兄弟姉妹の間で意見が合わず、合意が得られないと、冗談ではなく長年解決しない可能性があるからです。
不動産相続を行う場合には、即断できる物件の所有者を1人にしたほうが、良いケースもあることでしょう。
売買の決断をスムーズに手続きに反映するには、相続の段階から先を見越した対策が必要になるのです。
相続登記の義務化
ところで、相続登記は、2024年4月1日に改正不動産登記法が施行され、相続登記の申請が義務化されます。
不動産を相続や遺贈により取得した相続人は、相続の所有権を自分が相続したことを知ってから3年以内に相続登記を行わなくてはなりません。正当な理由がなく、相続登記義務に違反した場合には、10万円以下の過料となることがあります。
何らかの事情によって相続登記が間に合わないときには、とりあえず3年以内に法定相続分で相続登記か相続人申告登記を行なって、準備が出来次第、遺産分割登記を行うといった方法もあるようです。
相続人申告登記制度とは、改正不動産登記法によって定められた新しい制度で、当該不動産の相続人であることを法務局に対して申し出て登記する制度です。とりあえず自分が相続人であることを示すことで、3年以内の相続登記の義務を果たしたことにしてもらえるようです。
ただし、正式な相続登記ではありませんので、遺産分割協議などを行なって相続人が確定したら、確定した日から3年以内に正式な所有権移転登記を行います。
税制面での優遇も賢く利用する
相続から3年以内に売却した場合には、税制上で優遇される場合があります。不動産の売却益には不動産譲渡所得税がかかるところ、マイホーム売却時の特例控除(3,000万円)や空き家になってしまう家に対して適用される相続空き家売却の特例控除(3,000万円)の特例控除が存在しているのです。
いずれも3年という期間が設けられていることから、売却の場合には3年がひとつの目安になります。決断してからは早めの手続きを行なっておくことをオススメします。
税制面での優遇を賢く利用するなら、家の取得費用は事前にしっかりと把握しておくことをオススメします。家を取得した際の費用をしっかりと算出することで、税金の計算(譲渡所得算出)に活用できるからです。
私たちも遺品整理をご依頼いただく場合、こうした書類の捜索を申し受け、しっかりとお探しするケースも多いです。
法定後見制度を利用した売却(ご両親が認知症などのケースで売却をお考えのとき)
認知症などによって売却についての親の意思表示が難しいケースでは成年後見制度を利用して売却できます。
認知症の状況では法的に意思能力がないとみなされ、子供が代理で売却できません。
そこで、法定後見制度や任意後見制度、家族信託といった方法で売却を検討します。
中でも、検討される方の多いのが任意後見制度ではないでしょうか。
認知症になる前に手続きすれば、家族が後見人になれる
法定後見制度による成年後見人には家族がなることはできませんが、任意後見人は家族でも後見人となれます。
その後、親が認知症などにより判断する能力が不十分な状況となった時、親族や任意後見人が家庭裁判所に請求することによって、任意後見監督人という人を選任し、親の代理として不動産の売却等の法律行為を行えます。
ただし、あらかじめ親と任意後見人との間で、公正証書による任意後見契約を締結する必要があります。そのため、任意後見制度を利用するには、親が元気なうちに任意後見契約を締結しておかなくてはなりません。
具体的な内容は、地域の支援センターに相談するなどして、必要な書類や手続きの案内を受けるのが良いでしょう。
なお、特殊な事情で任意後見制度が利用できないケースでは、家族信託(自益信託)によって認知症へのリスクに備えるといったケースも想定されますので、状況に応じて専門家の意見を聞きながら方針を策定すると良いでしょう。
任意後見制度が利用できない場合には、法定後見制度によって親の認知能力の程度に応じて、家庭裁判所によって選ばれた成年後見人、保佐人、補助人に代理権など、不動産売却のための手続きを行う権利が与えられます。通常は弁護士や司法書士が選任されます。
先ほどの任意後見制度とは異なり、まったくの他人が不動産を売却する代理人となることに注意が必要でしょう。
いわゆるアパート建築のような相続対策は不可能で、売却など最小限の内容しか認められません。
親の代理人として売却する方法
親に売却する意思があり、売買手続きにあたる不動産会社や買主がその意志を本人に直接確認できる場合、「委任状」によって売却の権限を委任し、親の代理人となってあなたが代わりに一連の手続きを行えます。
委任状が受理されることで、家の所有者である親と同等の権利を持てるのです。
委任状には様式や専用のフォーマットが存在しないため、必要な事項を網羅した書類を自分で用意する必要があります。
以下のような書類を用意することになります。
委任状
委任者○○は○○を代理人とし、下記の条件で下記不動産の売買契約を結ぶ権限を委任します。
1. 売買物件の表示項目
(土地)
所在:○○都○○区
地番:○○番○○号
地目:宅地
地積:○○平米(建物)
所在:○○都○○区○○番○○号
種類:居宅
構造:木造2階建
床面積:1階○○平米
2階○○平米2. 売却の条件
(I)売却価格:金○○円
(II)手付金額:金○○円
(III)引渡し予定日:令和○年○月○日
(IV)契約解除時の違約金額:売却価額の○%相当額以上で、協議の上決定する。
(V)公租公課の分担起算日:引渡し日
(VI)金銭の取扱い:(※金銭の取り扱いについての取決めを記載する)
(VII)所有権移転登記申請手続き:(※金銭受領と同時に買主への所有権移転登記を行うために、予め〇〇司法書士に関係書類を預けておく旨を記載する)
(VIII)そのほかの条件:上記の条件に定めのない項目や履行に変更が生じた場合は、その都度協議の上決定する。3. 委任状の有効期限:令和○年○月○日
4. その他の条件:本件売買契約に用いる契約書の書式は別添契約書を使用するが、それ以外の事項で上記売却条件に定めのない事項および上記売却条件の履行に変更が生じるときは、その都度協議して定める。
以上
令和○年○月○日
委任者
住所:○○都○○区○○番○○号
氏名:○○ ○○(自署)代理人
住所:○○都○○区○○番○○号
氏名:○○ ○○(自署)
少なくとも、登記簿謄本に記された当該物件の情報と、売却に関する決め事、委任状の有効期限と委任する範囲は明記しておくと安心でしょう。このほか、所有者本人と代理人の氏名と捺印(実印と印鑑証明書を求められるのが通例)が必要です。
これらの書類を不動産会社に提出し委任状が受理されれば、売却に関する手続きを行えます。
なお、委任状には具体的に、ただし書きや注意書きとして委任する責任範囲を明確に規定しておきましょう。
たとえば「一切の件」などといった曖昧な表現を行うと、代理人に必要以上の権限が付与されることになり、その場の判断や咄嗟の発言が、所有者である親の発言と同義になるトラブルを引き起こす可能性があります。
そのため「本件売買契約に用いる契約書の書式は別添契約書を使用するが、それ以外の事項で上記売却条件に定めのない事項および上記売却条件の履行に変更が生じるときは、その都度協議して定める」というような注意書きを書いておくと安心です。
同様の意味で、捨印も避けましょう。委任状の余白部分に行う捨印によって、委任状の訂正を認めることになり、勝手に売買条件が変更されるリスクもあります。
まとめ
今回は親名義の家や土地を売却する場合の3つの方法と注意点をまとめてご紹介しました。
- 相続した家を売却する場合には、所有権移転登記を行ったのちに売却
- 親名義の家を委任状を用いて代理で売却
- 親が認知症になった場合へ備えて後見制度を利用
といった点がポイントになります。
売却という選択肢はおぼろげに見えてきたとしても、これといった正解がない問題だからこそ、早め早めに取り組んでおかれることをオススメいたします。
なお、私たち横浜ベスト遺品整理社にも提携する士業の方と連携して、実家売却についてのご相談を承っております。お悩みの方はご相談ください。
最後までお読みくださいましてありがとうございました。