インターネットでのショッピングやオークションの利用者が増加する昨今、世相を反映してかインターネットに色々な情報を保存したりという方も多いようです。
そんな中、オンライン上に自分の遺言やエンディングノートを保存できるサービスが好評を集めています。
今回は、デジタルで提供される遺言サービスを従来の遺言やエンディングノートを作成する方法と比較し、メリットや、ご自身が利用される場合のポイントをまとめてみました。
主要なサービスをまとめて見る
近年では様々なデジタルにおける終活サービスが展開されています。
まず、主要なサービスを形式に分けてご紹介したいと思います。
デジタルとアナログという軸で、またデジタルについては、自分の端末にデータを保存する場合と、オンライン上のサーバーにデータを保存する場合で分けてご紹介します。
デジタル | アナログ | |
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オンライン(クラウド) | オフライン(自分の端末) | 自室や金庫に保管 |
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従来の自筆やパソコンで印刷したものに署名をするようなケースはアナログに分類できるでしょう。
こちらについては自分で作るエンディングノートの書き方と活用方法でご紹介しています。
今回は、デジタルを利用したサービスを中心に見ていきます。
オンライン(クラウド)を利用した終活サービス
以下、オンラインで利用することができる終活サービスについてお伝えします。
なお、料金については変動する可能性を考慮して記載していません。各サービスのページでご確認ください。
タイムカプセル(LINEを利用)
LINEを利用して遺言を作成することができるのが株式会社ユニクエスト(大阪府)の運営する「タイプカプセル」です。
2020年3月25日にリリースし、わずか2ヶ月で累計1万ユーザーを獲得した話題のサービスです。
LINEのトークを利用した一問一答型で遺言書を作成することができます。
入力した情報は、健在時・倒れた時・逝去時に分けて、どのような情報を提供するのかを自分自身で決めることができます。
また、法改正に合わせて法的に有効な遺言書として、2020年の7月から自筆証書遺言を法務局に預けることができるようになるとのこと。
最期の意思を伝えるサービスとして今後も改善や拡充を宣言しています。
セキュリティについては、SSL証明書による暗号化とパスワード設定による方法が「よくある質問」に明記されています。
CUall(シーユーオール)
シーユーオール株式会社(東京都)の運営する「CUall」もインターネットを利用したサービスを提供しています。
自分がなくなった後に、友人や仲間へメッセージや動画・音声を送信することができたり、加入している保険の整理、自分の利用しているスマホやパソコン、SNSといったログイン情報の管理、自分の書いたエンディングノートの保管場所などを保存しておけます。
あらかじめ、自分が亡くなったことを知ることができる、信頼できる友人や仲間に対して、定期的にメールの受信をお願いしておき、その時が来たら、依頼された人が定期的に配信されるメールに返信することで認証され、保管されている情報が、生前入力されていた手順通りに、通知されるという形式になっています。
誤って友人が返信してしまった場合には、本人に通知が届き、すぐに処理を中止することができます。
スイッチメールとはなんですか?
「終活」処理のきっかけとなるメールです。システムが受信するとそれをきっかけに「終活」処理が実施されます。このスイッチメールの送信は、あらかじめ信頼できる複数の方にお願いしておきます。
セキュリティについては、情報は暗号化され保存されているという一文が記載されています。
Secbo
株式会社Digtus(神奈川県)の運営する「Secbo」も、伝えたい情報をクラウド上に保存して利用することができるサービスです。
「デジタル遺品」が、いまだ発展途上の技術であることに着目し、個人の尊厳とプライバシーを守った上で、伝えたい情報のみを残すことを目指して開発されています。
このため、現在は主に、パスワードの管理や、自分の持つデジタル情報をクラウド上に保管することによって、安全に管理することを目的としています。
開発を予定しているサービスとして「エンディングノート」が明記されていますので、今後利用できる可能性があるでしょう。
情報セキュリティー関連技術をサービスとして提供しているベンチャー企業である点は、ポイントの一つと言えるでしょう。
セキュリティについては、サービス紹介ページに
■ データは利用者ごとに異なる鍵で暗号化。更に暗号化の鍵そのものも一人ひとり異なる鍵で暗号化されているので情報漏えいの心配がありません。(特許出願中)
と記載されています。
ラストメッセージ
「ラストメッセージ」は予め用意した文章を、自分の死後などに発信するサービスです。
「ラストメッセージ」に加え、「秘密ボックス」「やりたいことリスト」の3つの機能を用意しているとのこと。
自分が一定の期間サービスにログインしないでいて、電話でも連絡が取れない状況になると、事前にお願いしておいた自分の死後の確認に協力してくれる人に協力を得て、ラストメッセージを配信するサービスのようです。
サービス利用についてYouTubeを利用した「チュートリアル」が用意されています。
セキュリティについては、FAQのページに
lastmessageで預かるデータは、暗号化通信など、盗み見および改ざん防止を図っています。安心してご利用いただけるよう、情報セキュリティの確保に万全を期しています。
と明記されています。
注意点:サービスの提供期間に疑問も。
主にオンラインでの遺言サービスでの懸念は、自分の死後までサービスが運営されているか、という点ではないでしょうか。
死後に送信されると思っていた伝言が、サービスの終了とともに消えてしまう、といった事態も実際に起きています。
ヤフーが2014年から提供している総合終活サービス「Yahoo!エンディング」は、公的書類である火葬許可証を参照することによって確実な死亡確認を行なう「ヤフーの生前準備」機能が話題を呼びましたが、こちらも2016年に規模を縮小して当該機能は終了しています。
自分がクラウド上で管理していた情報が、有事の際にきちんと自分が届けたい人に届けられるかというと、企業に情報を委ねる以上、企業を信頼するしかありません。
もちろん、企業では出来る限り存続させるための配慮がなされるわけですが、利益が上がらないサービスとなれば、終了といった懸念が存在することも考えておいた方が良いでしょう。
オフラインを利用したデジタルサービス
次に、オフラインを利用したデジタルでの終活サービスツールをご紹介します。
先に紹介した表の中では、自分でExcelを利用する方法や、自分でスマホを利用する方法と記しました。
これらは、自分自身でWordファイルやExcelファイルとしてエンディングノートの事項を保存しておいたり、スマホのメモアプリや、エンディングノートのアプリなどを利用して、家族にスマホの中にデータが存在していることを予め伝えておくというものです。
自分のPCやスマホがウイルス感染などしていない場合には、クラウド上にデータを保存する必要がないため、自分でデータを管理できるという点で安心できるのではないでしょうか。
しかしながら、自分でそうした管理を行うのが難しいという場合に、終活支援のデータサービスとして提供している「まもーれe」というオフラインで利用できるPC用アプリケーションがあります。
終活支援データサービス まもーれe
株式会社MONET(千葉県)が運営する「まもーれe」は、広く開示したいデータと、家族と共有したい重要なデータ、誰にも見られたくない秘密のデータと3つに分けて、主にPC内のデータを残す・残さないで設定することで、データを管理するためのツールです。
Windows10のPCをお持ちの方が利用対象となりますが、PCを主として利用されている方にとっては、強い味方となることでしょう。
クレジットカード・ポイント情報やSNSアカウント、個人資産の情報や、葬儀の希望、遺言書といったもの、個人的な秘密の情報をフォルダ分けして、いざという時、伝えたい人に、過不足なく開示したい情報だけを受け渡すことができます。
無償提供版である「Lite版」も用意されています。
GoogleやFacebookにも終活支援の機能が一部存在する
デジタル遺品などの言葉に象徴される、自分の死後のデータ管理について、GoogleやFacebookといった大規模サービスにも、自分の死後にアカウントを管理したり、破棄したりする設定を選ぶことができます。
詳しい説明は割愛いたしますが、該当のページをご覧になり、設定されると良いかもしれません。
- Google「アカウント無効化管理ツール」
Googleアカウントが長期間使用されていない場合に通知する相手や公開データを選択できます。 - Facebook「追悼アカウント」
自分の死後に自分のアカウントを管理する人間を指名するか、Facebookからアカウントを完全に削除するのかを選べます。
注意点:セキュリティも十分に配慮して利用しよう。
クラウド上に情報を保存するということは、自分とは離れた企業の内部サーバーに個人情報が保存されることを意味します。
暗号化されていると記載されているサービスが多く、システムの管理者が情報を覗き見ることも非常に難しいと考えられるため、一定の安心感はあります。(例えば、暗号化技術である「AES128bit」は米国標準であり、2020年現在のところ破られていないようです)
しかしながら、パスワードの漏洩・推測といった手法で破られてしまう可能性もあり、例えば、遺言の公開対象となる人に、生前に意図しない情報が配信されてしまうリスクも存在する可能性がゼロではないことに注意が必要です。
最近では2段階認証(例えばPCでログインする場合に、携帯電話でも認証を必要とする方法)についても取り扱いに注意が必要と言われています。
インターネットのセキュリティについて、疑問を感じる方は、サービス提供企業によく確認することを強くお勧めします。
なお、パスワードについてですが、英文字で小文字のみの8文字の場合、組み合わせは約80億通りなのに対して、10桁で英語の大文字+小文字+数字と記号を全て利用することによって、組み合わせは約6,648京通りになるとのこと。(また暗号化ZIPファイルの場合、超高速コンピュータであれば英語小文字のみで8文字のパスワードの解析時間は2秒だったとのこと)
出典:株式会社ディアイティ「第2回:そのパスワードで大丈夫? ~ GPGPUによる高速パスワード解析 暗号化ファイルと無線LANパスワード解析スピード」
最近はブラウザ側が記号などを含めた自動パスワードの生成機能も存在します。
自分でパスワードを管理する場合には、使い回しや、短く単純なものではないように注意しておく必要があると言えます。
もし不安な方は、自分が使っているパスワードが過去に漏洩したものではないかどうか確かめる方法があります。下記を参照してください。
Gigazine「無料で自分のパスワードが過去の漏洩データに載った危険なものかどうかをチェックできるサービス「Pwned Passwords」」
他にも。例えば、僧侶の手配もオンラインで行える。
ここまで終活サービスを中心に見てきましたが、現代ではお坊さんの手配もオンラインで行うことができます。
株式会社よりそう(東京都)が運営する「お葬式や法事にお坊さんを初回35,000円で手配する」というキャッチコピーの「お坊さん便」は、文字通りお坊さんの手配をオンラインで行うことができるサービスです。
現金以外にクレジットカードやコンビニ後払いなど豊富な支払い方法と明確な金額で法要が可能となるのが売りの一つです。
家族葬が広く受け入れられ、檀家制度廃止に取り組むお寺も増える中、こうしたサービスの利用者は増加傾向にあるようです。
僧侶の手配をオンラインで行うということ自体に抵抗を感じる方がいらっしゃるのはもちろんのことですが、儀礼的な形式よりも、家族葬などのように「弔いの気持ちに集中したい」という家族の心がより重要視されていると言えるのかもしれません。
手段は変わるが果たす目的は変わらない。
最近では手軽に様々な情報に触れることができ、誰しもテレビ局のように発信できる社会となりました。
無論、手軽になることは、昨今話題の誹謗中傷といった問題をクローズアップしてしまったとも言えるでしょう。
しかし、手段が変わるだけで、方法は違えど、そこに気持ちや思いといった、極めて「人間的」なやりとりが行われることに、今一度目を向けるべきなのかもしれません。
思えば、恋人とのやりとりを、明治の頃は「恋文」という形で、昭和に入ってからは「電話」になり、平成にEメールとなって、令和には「SNS」や「クラウド」のような流れになってきたということなのでしょう。
人には言えない、ちょっと恥ずかしいやりとりも形を変えて連綿と行われてきたのです。
「こんな手紙が送られてきた」と友人に見せて内容がバレていたようなことが、現在ではTwitterで大規模に拡散してしまいます。
実はインターネットとは、個人レベルにまで落とし込むと、「様々な考えを持つ人々が同じフィールドに集められている」という極めて使い勝手の悪いものになってしまっているのかもしれませんね。
最近ではLINEなどのSNSの隆盛により「Eメールはなくなる」と実しやかに論じられてきました。しかし2020年の現在、Eメールはむしろ、各サービスのハブとしての役割を果たしています。
そこに確かにある伝えたい情報や目的は、昔から現在まで形を変えても、内容は変わらない、と言えるのではないでしょうか。
それは、エンディングノートや遺言であれ同じことだと言えるでしょう。
選択肢が増えたからこそ、その選択を慎重に、確実に。
今回ご紹介したように様々なサービスがインターネットを利用して提供されることはとても喜ばしいことです。
江戸時代の絵師が、現代のiPadやペンといったタブレット端末を手にしていたら、どのような作品になっていたことでしょう。
しかしながら、日本を代表するアニメーション映画を作成しているジブリは「手書き」にこだわっています。
また、私事ですが、鹿児島県の知覧にある知覧特攻平和会館を訪れた際、当時の若き兵隊さんが紙に残した遺書に涙せずにはいられませんでした。この時、特攻平和会館のスタッフの方に「意思が最も残るのは、墨で紙に書かれたものです」という言葉に感銘を受けました。
なるほど確かに、当時手書きとして手軽だった鉛筆書きは経年変化で薄れてきていましたが、きちんと硯で擦った墨でしたためられた遺書は、当時の面影を現在に残し、黒々とした文字で、今から特攻する兵隊さんの家族への気持ちを遺していました。
書き損じが許されない墨だからこそ、事前に推敲し、ある種の覚悟とともに筆をとる姿が、容易に想像できました。
コンピュータが我々の手元にもれなく届いている現在では、「コピペ」や「やり直し」で幾度も文章を複製したり変更したりすることができます。
これは手軽とも言えますが、それだけ軽い感じも否めません。
色々なサービスが提供される現在では、自分の意思を残すために残しておくものの形は、熟考の上で、インターネットや手書きなどの、方法について改めて考えてみてはいかがでしょうか。
当社では、遺言書作成やエンディングノートについてもご相談を承ることができます。ご質問などはお気軽にお問い合わせください。
最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。