私たち業者から見ても、終活や生前整理は断捨離の延長として2010年ごろにはにわかにブームのようになり、日本の多くの方に受容されつつあるように見受けられ、現在は随分と定着してきたように思います。
現在では情報がある程度整理され、やった方が良いことやその方法論の情報は比較的簡単に手に入ります。
その一方で、終活や生前整理についての捉え方は人それぞれさまざまです。
自分の人生において、やることがなくなった場合にやるのが「終活」と捉える人や、「今からすぐにでも取り組みたい」と40歳に張ったことをきっかけに始める方など多くの向き合い方があるように感じます。
必要性を感じないという方も少なくありません。
しかしながら、お部屋のお片付けに日々取り組む中でご意見を伺うと、生前整理の必要性を感じるケースが少なくありません。
複雑な家庭環境をお持ちのある女性の方は、数十年前、姉妹間で手紙のやりとりをしていて以降、疎遠になっている姉が亡くなられ、お片付けをご依頼いただきました。
手紙のやり取りの中には、辛辣な家族への批判などを書いたこともあったとのことで、この世を去った姉が親類間の軋轢の書かれた手紙を処分したかどうか気になって眠れない、とおっしゃっておられました。
そのお手紙は亡くなったお姉様のお部屋を整理する段階で発見しお渡しいたしました。
このように、それぞれ複雑なバックグラウンドをお持ちの方にとって、生前整理は非常に大きな意味を持つこともあります。
今回は、生前整理に興味や課題を感じながら最初の一歩を躊躇してしまう方へ、先に取り組まれているみなさんの考えや、大事なポイントをまとめてご紹介いたします。
生前整理とは?
生前整理とは自分がこの世から旅立ったときに、家族に葬儀や遺産・相続で問題が発生しないように元気で生活しているうちに身の回りの整理や必要な情報をまとめておくことを言います。
2010年ごろから注目されている「終活」などと一緒に話題とされることの多い生前整理ですが、その内容は人それぞれで多種多様になります。
一時期に比べれば、経験から共有される情報や、書籍、インターネットで随分と整理されてきていますが、まだまだインターネット上でもさまざまなサイトで生前整理についての必要性や方法についての情報が氾濫しています。
どうして生前整理が必要なのか
生前整理や終活は、こうした言葉で表現される以前から日常の生活で行われてきました。
そのため、生前整理や終活と表現したからといって、特別な作業が必要というわけではありません。
名前を与えたということは、それに付随する営利目的のサービスがやりやすくなるという側面があったことは考慮に入れるべきかもしれません。
そのため、目的や内容は慎重に見極める必要があるのです。
家族に無責任になりたくない、という気持ちが生前整理のモチベーション。
入院や老人ホームへの入所などの理由を除いて、元気なうちに生前整理に取り組もうとされる方の多くが終活で取り組まれるのは以下のような内容です。
- 葬式は家族葬や直葬で良いと伝える
- 兄弟間で等分に分けられるよう、遺言を書く
- これ以上生活に不必要なものを買わないように意識する
- ネット関係のアカウントを整理する
これらの内容への対処は「死後にご自身の意思を反映させる」という生前整理本来の意味以上の意味を生みます。
たとえば、お葬式やお墓のことはご自身で決めて家族や親戚に伝えておくことが重要だと「菩提寺のお経はいらないがお墓には入りたい」「葬儀は簡単にして貰えば良い」と家族に伝える方は少なくないようです。
もちろん、意思を伝えておくことは重要なのですが、自分の要望を伝えているだけで残された親族への負担を増やす結果になっている可能性があることも考慮に入れなくてはなりません。
とくに「簡単」の定義が曖昧で、トラブルとなることは少なくありません。
簡単とは、通夜・葬式告別式を希望するのかそれとも火葬を希望するのか、葬儀社まで明確にしておくべきだと言えるでしょう。
さらに、実際にその時がくれば、家族や身内では頭が回らず準備にてんてこ舞いです。
さらに、口うるさい親戚が突如登場、お経もなしの葬式なんて考えられないと横槍が入ることも考えられます。
ご先祖様がいるお墓を継いでいく親族がいないのであれば、自分が元気なうちに菩提寺と話し合って墓じまいや永代供養のお願いを行わなくてはならないこともあり得ます。
ただし、改葬は菩提寺との交渉が難航する例も少なくありません。
そのため、結論の出ないまま10年経過してしまったご家族は非常に多かったりします。
このように、事前に想定されるリスクは意外と無視できないものであったりします。
葬儀の話などはなかなか決めかねる事柄だとしても、その第一歩としてお部屋のお片付けや整理をしようとお考えの方は、実はとても多くいらっしゃいます。
具体的には以下の3つの理由から生前整理に取り組もうとされる方がいらっしゃるように思います。
- 家族に負担をかけたくない
- 自分自身の判断能力が低下してきたときに安心だから
- 気負うことなく「整理」の延長を始めたら、きちんと生前整理をする必要性に気づいた
以下、くわしく見ていきます。
1.家族に負担をかけたくない
ご高齢の方は、若年層と比較してはるかに裕福です。
ガベージニュース「世帯主の年齢別貯蓄総額分布をグラフ化してみる」によれば、
「二人以上世帯の総貯蓄の7割近くは、60歳代以上の世帯だけで有する」「二人以上世帯の総貯蓄の約85%は、50歳代以上の世帯だけで有する」
ということです。
つまり、大抵のご高齢者の方は、亡くなる時点である程度の財産(平均:2,446万円・出典同上2016年の70歳以上の高齢者)を持っていらっしゃることになります。
この財産分与であったり、遺産相続の問題は、一般の幸せな家庭でも骨肉の争いに発展しかねない憂慮すべき問題です。
もちろん、ご自身が亡くなってからでは、遺産について口を出す事ができません。そのため、事前に準備したいとご相談される方も多いのです。
こうした法務的な分野は弁護士さんなどの領域になるのですが、遺産相続トラブルは、残念ながら散見されます。
家族に必要以上の負担をかけてはいけないという思いから取り組まれる方も多いように感じます。
2.自分自身の判断能力が低下してきたときに安心だから
続いて、ご自身の健康へのリスクを眼前にして、取り組まれようと決意された方もいらっしゃいます。
ご高齢の方が病気で入院したり、認知症を患うことになった場合、自分の意思をはっきりと表明できるように事前に自分の意思を表明したい、との想いから生前整理したい、とご相談いただく事があります。これは、近年とくに増加している印象があります。
たとえば「(古い慣習の話にはなりますが)ウチは『新家』だから、自分で入るお墓をあらかじめ決めておきたい」とか、金銭的な負担になるから「自分を見送ってもらう葬儀は自分で決めておきたい」といった理由で自分が健康なうちに文字通り「終い方」を考えられるお客様も多い印象です。
判断能力が低下した状態では、遺言を書いて行くのも大変です。
自分自身で判断できる状態の時に、自分の意向で、本当に今の自分に必要なものを取捨選択できる機会を、得る事ができるのです。
生前整理をどのように行いたいのか、それを表現する方法は、遺言だけではありません。
もっと簡単に「エンディングノート」という形で表現することもできます。
3.気負うことなく「整理」や断捨離の延長を始めたら、きちんと生前整理をする必要性に気づいた
断捨離など、ものを減らす整理を始めたことをきっかけに生前整理の必要性に気づいたとおっしゃる方もいらっしゃいます。
お客様が最初に意識されているのは、あくまでもご自身の整理なのですが、整理に向き合い、よくよく考えていたら「自分自身の生前整理を今のうちからしておく必要があるかもしれない」という必要性を意識されたとのことです。
お家の片付けをしていて、家に不必要なものを処分しようとしたら物の多さに圧倒され、必要なものと必要でないものの違いが自分にしかわからない、ということに気づいたと仰っておられました。
ご自身の死後に、価値あるものもまとめてすべて処分されてしまうことを考えれば、否応無しに生前整理の必要性を認識させられる自体となるわけです。
まとめ
ここまで、生前整理を始めたきっかけについてご紹介してまいりました。
今の状況を受け入れて対処するという方向性で物事を考えるのはとても大事なことです。
それなりに準備することで、必要な資金以外は旅行など今の生活を楽しむために利用でき、終活という行為そのものもデメリットばかりではないのだなと考えるきっかけを与えられることでしょう。
終活は絶対にやらなければならないことではありませんが、事前にリスクやデメリットを排除できるため、安心した最期を迎えられるという点が取り組むべき良いポイントになるかもしれません。
そして、少しでも生前整理を意識し始めたら、小さなところから意識的に進めていくことが重要だと言えるでしょう。
無理をせず、日々の生活の中で少し意識してみるだけで、大きく結果は変わるかもしれません。
この記事が生前整理についての課題をお持ちの方への一助となれば幸いです。
最後までお読みくださいましてありがとうございました。